海を読み、魚を語る――沖縄県糸満における海の記憶の民族誌

三田 牧
 A5判/328ページ/本体3500円+税
 2015年3月/ISBN 978-4861871238
 「沖縄文化協会賞」(第37回)受賞
 

沖縄の海人(漁師)と魚売りのアンマー(お母さん)は
海とどう関わりながら生活を切り拓いてきたのか?
海や魚を「読む」知識を通して人びとの暮らしの記憶を語る、
長年のフィールドワークの成果。

 

目次

はじめに

序 章 糸満へ
1 問いの始まり
2 本書の背景
3 研究方法

第1章 糸満という町の記憶
1 土地の記憶
2 層になった記憶
3 糸満漁業史
4 魚売りの歴史
5 糸満漁業と魚売りの戦後史

第2章 魚に刻まれた記憶──アンマーたちの魚売り
1 糸満アンマーのいる風景
2 アンマー魚を読む
3 アンマー魚を語る
4 アンマーの専門分野と方名認識
5 スーパーマーケットの魚
6 糸満アンマーの魚

第3章 イノーの記憶──埋め立てられゆく海を読む 
1 糸満のイノーとアンブシ
2 イノーの地名
3 埋め立てとイシヤー開拓
4 イシヤーを構成する要素
5 イノーに刻まれた海人たちの足跡

第4章 「海を読む」知識と技術の進歩 
1 「人びとの知識」研究における科学的知識の扱い
2 上原佑強さんの漁経験
3 「海を読む」知識と、その構築過程
4 知識と漁実践
5 読めなくなってきた海
6 海を読んで漁をすること

第5章 天気を読んだ記憶
1 四八人の漁経験と技術の進歩
2 天気予報の進歩
3 天気を予測する知識
4 「天気を読む」知識から見る糸満漁師の戦後史

終 章 海とともにある暮らしの記憶が問いかける
1 海や魚を「読む」人びと
2 記憶によって「糸満」をとりもどす

あとがき

参照文献
付表1 魚類の方名・標準和名・学名対照表
付表2 魚類以外の生物の方名・標準和名・学名対照表
付表3 方言解説
付表4 海の地名

著者プロフィール

三田 牧(みた・まき)

1972年 兵庫県に生まれ、京都で育つ。
2002年 京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程研究指導認定退学。
2006年 博士(人間・環境学)取得。
日本学術振興会特別研究員(DC2)、京都文教大学教務補佐員、ベラウ(パラオ)国立博物館客員研究員、国立民族学博物館機関研究員、日本学術振興会特別研究員(RPD)などを歴任。
1996年より沖縄県糸満で漁撈文化について学ぶ。その後、糸満漁民の足跡を追いパラオ(現地名ベラウ)へ赴き、漁撈文化について学ぶとともに、パラオの人びとの日本統治経験について聞き取りを行う。2010年より調査地を沖縄に戻し、第二次世界大戦前に沖縄からパラオに移住した人びとのオーラル・ヒストリーの聞き取りを行う。
現 在 神戸学院大学人文学部准教授。
主 著 Palauan Children under Japanese Rule: Their Oral Histories(Senri Ethnological Reports 87), Osaka: National Museum of Ethnology, 2009.『はじまりとしてのフィールドワーク──自分がひらく、世界がかわる』(李仁子・金谷美和・佐藤知久編、共著、昭和堂、2008年)。1972年生まれ。
2002年京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程 研究指導認定退学。博士(人間・環境学)。
〈旧姓川端〉

書評

書評オープン


 著者は1996年から通算1年6カ月にわたって糸満の市場の鮮魚店で働きながら漁の話、魚の話を綿密に聞き取った。まとめた研究成果は、今では大事な記録となった。「大事な記録」と表現する理由は、著者が研究していた頃から、約20年の時間がたち、糸満の人々の暮らしと町の姿が大きく変貌しているからである。
 著者は、こう述べる。「私にとって胸騒ぎがするのは、新しい町と古い町に連続性が見えず、『表の町』と『裏の町』のような二重構造になっている印象を受けるせいだと思う。糸満が歴史的に蓄積してきた経験のほとんどが『日のあたらない場所』に追いやられているように感じる。(略)経験に根差さないこの町は、どこか空虚だ」と。
 評者も糸満市民だが、市民の多くが糸満の発展にあり方に必ずしも満足していないと感じる。根底には著者が指摘する町の時間的・空間的連続性の欠如に原因がありそうだ。
 著者は本書の目的を「海に対峙して魚をとってきた男たちの記憶と、その魚を売ってきた女たちの記憶をもとに、糸満を糸満たらしめてきた何ものかを書き出すこと」と掲げる。筆者が記憶として綴った記録は、私たち糸満に生を受けた者に対し、丹念に読み解いて、良き糸満を築き上げたいと決意させる説得力を有している。

『沖縄タイムス』評者:崎山正美、糸満市旧暦文化に親しむ会事務局長(2015年5月2日)


「日本経済新聞」(15年4月16日)、「沖縄タイムス」(15年5月2日)、「琉球新報」(15年7月26日)、「図書新聞」(15年8月8日)などで紹介されました。

第37回「沖縄文化協会賞」を三田牧先生が受賞されました(「琉球新報」記事はこちら