斉藤千宏 編著
四六判/264ページ/本体2400円+税
1998年4月/978-4906640133
NGOなくして南アジアを語ることはできない! 住民参加を重視した公正な発展をとげるための非政府組織の役割を、地に足のついた豊富な滞在経験、NGO活動とフィールドワークにもとづいて明らかにする。
はじめに
第1章 参加型開発とNGOが地域を変える/斉藤千宏
1 生物資源の保全とNGOのアドボカシー
2 住民主導の地域計画における政府とNGOの協働
3 NGOが大きな力をもつ南アジア
4 NGOの自律性と持続可能性
第2章 住民によるスラムの改善(スリランカ)/穂坂光彦
1 スリランカの居住事情
2 スリランカの住宅政策
3 NGOが支援するスラムの改善
4 NGOに求められる新たな役割
5 日本の市民と南北連帯
第3章 イスラームと農村開発(パキスタン)/子島 進
1 イスラームのNGO
2 イスマーイール派と北部山岳地帯
3 混合産地農業の村
4 村に埋め込まれた宗派組織と社会開発
5 開発指導者としてのイマーム
6 大きな力をもつNGOへ
7 イスラーム復興と開発
第4章 NGOとエンパワーメント(ネパール)/定松栄一
1 エンパワーメントへの始動
2 自助努力による開発センターの活動
3 住民の自主性を大切にする
4 コミュニティ経済開発プログラムへの移行
5 行政および市場との橋渡し
6 エンパワーメントにおけるNGOの役割
第5章 NGOの発展を支える在地性(バングラディシュ)/安藤和雄
1 それは難民の支援団体から始まった
2 NGOの農村開発
3 ローカルNGOの台頭
4 小規模金融事業はなぜ根付いたのか
5 「サー」と村の人間関係に支えられたNGO
6 在地性とNGOの原点
第6章 住民参加による森林の保全(インド)/長峯涼子
1 インドの森林に生きる人びと
2 共同森林運営のシステム
3 住民の抱える問題
4 住民参加の意義とNGOの役割
第7章 女性の社会参加と開発/穂積智夫
1 経済成長と社会発展のギャップ
2 低い女性の地位
3 女性のエンパワーメントと社会開発
4 女性の地位と社会発展
5 「目的なき富裕」か、バランスのとれた社会発展か
書評オープン 『沖縄タイムス』(1998年5月29日より) 開発途上国の経済発展を考える際には、まず経済成長を高め、国家経済全体のパイを拡大し、同時に生活レベルの底上げを行う。ついでその恩恵の公正な分配を図る、というのが開発の順序として一般的に考えられている。特にアセアンの諸国においては、基本的にこの開発の手順に従って、順調な発展を進めてきた。しかしながら、所得分配の不平等はなかなか改善されず、むしろ悪化の方向をたどる国も出てきた。この経済成長と社会的公正のバランスの取り方は、古くて新しい課題であるが、残念ながら今なお多くの開発途上国においては、適切な処方箋を見出すことができていないように思われる。 『OECFニュースレター』(1998年6月号より) ※そのほか、『毎日新聞』(98年6月17日)、『河北新報』(98年5月31日)、『下堅新聞』(98年5月30日)、『山陽新聞』(98年6月1日)、『北海タイムズ』(98年5月31日)、『宮崎日々新聞』(98年5月31日)、『北日本新聞』(98年5月31日)、『熊本新聞』(98年5月31日)、『長崎新聞』(98年8月3日)、『ふぇみん』(98年6月5日)、『月刊オルタ』(98年8~9月)、『JOCV Monthly Magazine Crossroads』(98年9月)などで紹介されました。
インドを中心とする南アジアは、世界のさまざまなNGO(非政府組織)が活動を展開する地域だ。国連機関、青年海外協力隊、民間ボランティアなどで活動する七人が、住民主体の公正な発展とは何かを提言する。
政治・経済的な格差、政府とNGOとの関係のほか、各国の識字率、男女の不平等、スラムの住居環境、小規模な金融事業の問題などが、どのように改善されつつあるのかを具体的に解説した。
開発援助による経済成長ではなく「社会発展」を目指すというNGOの息吹が伝わってくる。
その開発のゆがみを補完する役割を一部担っているのがNGOであり、またその活動が目に見える形で様々な成果を上げている地域が南アジアであると言えるであろう。本書は、このような南アジア諸国(スリランカ、パキスタン、ネパール、バングラデシュ、インド)における状況を、NGO・国連機関・青年海外協力隊などで現地に長く滞在し、豊富なフィールドワークや地域住民との交流の経験を持つ執筆者による具体的解説で纏められた興味深い報告書である。
本書を読み進める内に、一方で新たな課題にも気づかせられる。例えば途上国政府の責任とNGOの役割、巨大な資金量、組織力を備えたローカルNGOと日本のNGOとの役割分担のあり方、また、OECFとNGO、JICA(JOCVを含む)あるいは国際機関等との具体的連携の取り方等、今後の開発援助を考えて行く上での大きなテーマであろう。
本書は「南アジアという舞台において地元NGOが果たしてきた役割について、実例をもとに考えることにある。NGOは貧しい住民が経済的・政治的な力をつける(エンパワーメント)上で、どの程度の効果を上げているのか、そのために政府とどのような関係を築いているのか、住民は市場システムとどう折り合いをつけて生計を改善できるのか」などを探ることを狙いとしている。これらは、本書を用いて開発援助やNGOの役割を学ぶ学生達にとっても研究しがいのある課題であるといえよう。