吉田太郎(キューバ農業研究者)著
四六判/256ページ/本体2200円+税
2002年8月/ISBN 978-4906640546
世界的な有機農業大国キューバ。近代農業からの全面的転換、自給の国づくり、流通改革、充実した食農共育……今後の日本農業の有力なモデルの全体像をたび重なる取材をとおして初めて詳細に描く。
プロローグ 知られざる有機農業大国
第1章 経済危機と奇跡の回復
1 カリブから吹く有機農業運動の新しい風
2 食料危機からの回復を支えた人びと
第2章 有機農業への転換
1 キューバの土づくり
2 病害虫・雑草との闘い
3 循環型畜産への挑戦
4 広まる小規模有機稲作運動
5 化学水耕栽培から有機野菜へ
6 有機認証をめざす輸出作物
第3章 自給の国づくり
1 有機農業を支えた土地政策と流通価格政策
2 大規模農場の解体と新しい協同農場の誕生
3 広がる都市農業
4 新規就農者と個人農家の育成
5 流通の大胆な改革
第4章 有機農業のルーツを求めて
1 経済危機で花開いた有機農業研究
2 有機農業に長く取り組んできた農民たち
3 有機農業のモデルプロジェクト
4 有機農業と持続可能農業
第5章 有機農業を成功させた食農教育
1 汗の価値を忘れない人間教育
2 市民たちの野菜食普及運動
3 実践的で開かれた大学教育
エピローグ 日本とキューバの有機農業交流を
吉田太郎(よしだ・たろう)
1961年生まれ。筑波大学自然学類卒。自治体職員(農政担当)。キューバを4回訪れ、綿密な取材をおこなった。日本中でキューバの農業にもっともくわしい。
書評オープン 『朝日新聞』「著者に会いたい」(2002年9月15日より) カリブ海に浮かぶキューバでは、国を挙げて有機農業を進めている。以前はソ連型の近代農業を目指していたが、ソ連解体後に石油、肥料、農薬などが輸入できなくなり、仕方なく有機農業に転換した経緯がある。 『全国農業新聞』(2002年11月22日より) ※そのほか、『ふぇみん』(2002年10月25日)、『自然と人間』(03年1月)、『菜園王』(03年春号)で紹介されました。 読者の声オープン (AMAZON.COM/読者からの投稿)
「ここは一つのユートピアだ」と思った。カリブ海の国キューバのことである。
社会主義国キューバでは、ソ連崩壊後に米国の経済封鎖が追い打ちをかけ、輸入が激減した。中でも自給率40%の食糧問題は切実だった。化学肥料が不足し、やむにやまれず有機農業を復活させる。日本では安全と付加価値という視点でしか見られない有機農業で、自給を取り戻した。
なぜキューバで有機農業が成功したのか。その答えを、欧州のエコロジストたちとも親しい著者は何度も現地を訪れて考えてきた。『200万都市が〜』にはハバナを中心とする環境問題全般が、『有機農業が〜』には国全体の農業環境がリポートされている。
61年、東京生まれ。現在は東京都の農業振興課に勤務する。鳥獣害対策が主な仕事だ。都市農業は学生時代からのテーマだった。有機農業の里で、漫画『夏子の酒』の舞台の一つ埼玉県小川町にある霜里農場で修業した。農場を営む「師匠」金子美登さんにすすめられて役人になった。
統計上ではキューバは貧乏な国だ。しかし、医療や教育が保障された生活、国を挙げて危機を乗り越えた事実を吉田さんは見た。疲れて希望をなくしている日本では、不景気、リストラ、管理社会と嫌になる話ばかり。豊かさとは何だろうと考えさせられる。
「成功している面だけを見たのかもしれません。でも、私には悪い国とは思えない」
穀物の7割を輸入に頼る日本で、同じように輸入が止まったらどうなるのか。また、化学肥料の原料は鉱石など限りある資源だという現実も忘れてはいけない。
今春まで3年間、伊豆大島で、都会人が農山村で自然を楽しむグリーンツーリズムに携わった。屋上緑化や休日農業の増加、NGOの活動などに変革への希望を見る。
「とにかく自分で野菜を作ってみることです。最高の味ですよ」
物がなければ人は工夫を重ねる。牛耕を復活させ、地域の気候・土質を研究し、ミミズたい肥、バイオ農薬などを生み出した。今ではこれらが有力な輸出品に成長した。
小学校から大学までの教育が無料。実作業を通した農業教育を採り入れ、「汗の価値を忘れない人間教育」を貫いている。大学教授より農民の所得が高い国なのだ。
有機農業の先進国といえば、ヨーロッパ諸国を連想しがちです。でも、ヨーロッパは米作が殆どなく、冷涼で小雨であるため、有機農業の理念や政策面では参考になっても、技術面では我が国にそのまま適応できるものは限られています。
この本は、我が国と似た条件(米を主食にし,多雨で夏に暑くなる)キューバが国を挙げて有機農業に取り組んでいる状況を技術面と政策面についてバランスよくまとめた良書であります。
また,都市住民の自給用菜園や子供たちに食や農の尊さを教える食農教育の取り組みも丁寧にまとめています。
BSEや農薬まみれの中国産野菜に代表される食の安全性が注目されている今、農業者や農業関係者必読といえるでしょう。