軍が支配する国インドネシア──市民の力で変えるために

シルビア・ティウォンほか 編、イスクラほか 画、
福家洋介・岡本幸江・風間純子 訳
四六判/200ページ/本体2200円+税
2002年10月/ISBN 978-4906640430

インドネシア軍の暴力は物理的な面だけではない。政治やビジネスの利権掌握、報道規制、「国民」教育、歴史の改竄など枚挙にいとまがない。ウィットに富んだ文とイラストで暴く軍事国家の実態。

目次

はじめに

第一章 軍はトラブルメーカー
 ステッカーのなかの軍
 生活のなかの軍
 スハルトを支えた四つの支柱
 王のしもべとしての軍
 軍内部も分裂した一九九六年七月二七日事件
 騒乱事件を操るスハルト翁
 人びとの権利をふみにじる軍
 「弾圧許可証」を持ったスハルト体制
 軍事作戦地域に隠されているもの
 スハルトをつるせ

第二章 軍の歪んだ歴史
 文民を疑う軍
 革命という緊急事態
 政治危機の契機となった一〇月一七日事件
 ふたたび四五年憲法へ
 社会・政治分野への台頭
 スカルノ、共産党、軍の対立から九月三〇日事件へ
 権力への執着
 二重機能の思い上がり

第三章 権力に近づくために
 「指導される民主主義」の裏側
 議会制民主主義の終わり
 共産党・スカルノ・軍の権力争い
 共産主義を口実に
 謎の九月三〇日事件
 政治の安定から二重機能の強化へ
 パンチャシラ国家の哲学
 市民社会の爆発

第四章 国防・治安のための暴力
 戦争の新しい定義
 必死ないいわけ
 新しいライバル
 ジャーナリスト、知識人たちの受難
 政敵メガワティ
 民主党事務所の襲撃
 暴力のドミノゲーム
 政治ゲーム、権力ゲーム
 治安攪乱運動を掃討せよ
 ビジネスという文化

第五章 ピストルと不思議なビジネス
 暴力とピストルのビジネス
 どうすれば陸軍の金庫にカネが入るか
 国営石油公社プルタミナは軍の資金源
 米より投資を好む食糧調達庁(ブログ)
 軍所有の企業、財団、協同組合
 治安維持のためのしろうとビジネス
 上げ底資本主義と新世襲主義のモデル
 華人と軍のファミリー・ビジネス
 分裂からスハルト体制崩壊へ
 独立の英雄から独裁者へ
 反共主義と九月三〇日事件

第六章 組織的な暴力
 ヤツらの頭は空っぽか
 画一化文化を育む学校教育
 強靱な肉体に宿る空っぽの脳みそ
 毎度「変革の用意あり」
 スハルトの秘書官らは軍システムの恩人
 わたしたちは軍を必要としているのか

解説 「ようこそ新・新体制!」にならないために
 スハルト時代に逆戻りのメガワティ政権
 現実とはほど遠い軍の「義務」
 NGO規制の方向へ
 共同出版者たちの願い
 日本こそ軍事国家

あとがき

書評

書評オープン


 <インドネシアの普通の人びとの目から見ると、軍はもっともよく知られていると同時に、もっともミステリアスな組織である><スハルト新体制は、あらゆる面で軍を主役として抜擢したので、軍隊的様式がインドネシアの文化の一部になってしまった>32年間続いたスハルト体制の実態は、軍による恐怖支配であった。その後の「新・新体制」といわれるメガワティ政権でも、軍はまた力を発揮しだしているという。本書は、そうしたインドネシア現代史とりわけスハルト体制における軍の役割とその支配のあり様を、現地のNGO活動家が暴いたレポートである。ここでは軍隊による弾圧と民衆支配が、リアルなイラストとともに描かれるが、注目したいのは、教育から年中行事までインドネシア社会に浸透した軍隊的様式の徹底ぶりだ。これが未だに払拭されない問題とそうした体制をバックアップしてきた日本の立場も問われざるを得ない。

『出版ニュース』(2002年11月下旬号より)


そのほか、『週刊現代』(02年11月16日)、『ガバナンス』(02年12月)、『月刊インドネシア』(02年10月)でも紹介されました。