パンを耕した男──蘇れ穀物の精[2刷]

渥美京子 著
四六判/208ページ/本体1600円+税
2003年6月/ISBN 978-4906640652

国産小麦のパン作りをめざして「バカじゃないの」と言われた男は、
いまや「日本のパンのモデルが具現化している」と業界最大手に言わしめる。
血友病をかかえながら、おいしくて、「ほっとする」パン作りと
日本の食文化と農の復権のために活躍する姿を描いたノンフィクション。

目次

プロローグ 地殻変動
 食パンが売れない
 日本人の遺伝子が求めるパン
 邪道から「日本のパンのモデル」へ

第1章 食の原点
 豊かさの象徴
 アレルギー
 箸でつまんで食べられるパン
 バックボーン
 葛藤の日々
 小さくても光るパン屋をめざす
 玄米菜食主義から学んだ食の体感
 身土不二と一物全体の思想

第2章 パン革命
 神棚に見つけた答え
 国産アオバ小麦との出会い
 塩、水、酵母へのこだわり
 生みの苦しみ
 不安から確信へ
 脱酸素剤という切り札
 逆手にとる
 クレームへの対応
 結婚
 雑穀に自分を見る
 日本人の味覚を刺激する魚醤
 予想以上の売行き
 箸で食べるパン料理の誕生
 全国区へ

第3章 常識への挑戦
 「手作りだからいい」わけではない
 砂糖も卵も使わないクッキーの成功
 村おこしに役立つパン
 パンの重みを知る
 ネーミングの妙
 経営の危機
 根強い偏見と、障害者雇用というこだわり
 輸入オーガニック小麦も使う理由
 国産有機小麦を使った全粒粉パン

第4章 こだわりのビジネス
 玄米と小麦の融合
 福島発沖縄経由全国へ
 もち麦が結んだ農と食
 発信は産地から
 すべてを県内産で
 つなぎは日本食のシンボル
 新しい伝統食品の定着と売上げの回復
 米粉一〇〇%のパンを共同開発

第5章 蘇れ穀物の精
 共感して売る人たち
 地元での流通ルートの確立
 命をつくる食べもの
 理念を追求する企業哲学
 めざすは第三の道
 共振のネットワーク
 パンに宿る穀物の精
 ロマンとラブ

あとがき

書評

書評オープン


 東京在住のフリーライター渥美京子さん(44)が、日本の食文化に合った新しいパン作りに取り組んでいる福島市のパン製造会社「銀嶺食品工業」の大橋雄二社長を紹介する著作「パンを耕した男-蘇れ穀物の精」(コモンズ刊)を出版した。
同書では、大橋さんのパン作りにかかわってきた三十人以上の人々の証言を織り交ぜながら、大橋さんがパンに込めた思いを紡ぎ出す一方、戦後、日本が欧米文化を模索する中で採り入れたパンを通して、日本の食文化のあり方を再考している。
著者の渥美さんは「大橋さんを通して、食べ物で体が作られること、人は持って生まれた条件で何ができるかが大切だということを実感していただけたら」と話している。

『読売新聞』福島版(2003年6月13日より)


 「地パン」が、首都圏で着々と愛好者を増やしている。国産小麦や玄米、雑穀、大豆など日本の伝統的な食材にこだわって作っている日本独特のパン。コンビニ大手で宅配販売され、注目を集める。
製造しているのは福島市の製パン会社、銀嶺食品工業。「初めて食べるのになつかしい」「ホッとする」と、なかなか好評だ。
地パン第1号の完成は今から10年前。だが、「パンには適さない」とされていた国産小麦を使用する常識破りのパンを置いてくれる小売店は一つもなかった。それでも、さまざまな地パンを次々と開発して世に送り出し続け、パン業界では「邪道」とまで言われた。
しかし、「日本の伝統的な食文化に根ざしたパンを」という理念が共感を呼び、首都圏の大手デパートやスーパーなどでの販売につながった。
血友病のため、10代半ばから21歳まで寝たきりで過ごし、24歳の時には骨折して左足を切断した。10代のころ、体質改善のため食事療法に取り組んだことがあった。
「食事について勉強し、日本の食文化が優れていることを実感した」。これが地パン作りの原点になった。
その生きざまを描いた「パンを耕した男」(渥美京子、コモンズ刊)が15日、出版された。
「日本的なやさしさや、まごころが感じられるパンがあっても、いいでしょう?」

『毎日新聞』(2003年6月18日より)


 戦後、欧米のライフスタイルが日本に入り、家庭の食卓に浸透し定着したパン。本書は、血友病と闘いながら、和食に合う「日本のパン」作りに挑んだ男の熱い思いを描いたノンフィクション。「国産小麦はパンには不向き」というパン業界での常識を覆すには、挫折や試行錯誤の連続だったが、今や「日本のパンのモデル」と言わしめるにまでなった経緯は、胸に迫るものがある。日本の大地がはぐくんだ恵みで作るパン作りを通じ、忘れられた古きよき日本の食文化の問い直しを提案している。

『日本経済新聞』夕刊(2003年7月12日より)


 血友病を抱えながら、福島市で製パンメーカーを経営し、日本の食文化に合ったパンづくりに挑む大橋雄二氏の歩みを描いたノンフィクション。
日本では、輸入小麦を原料にした、白くてふかふかの柔らかいパンが主流になっている。大橋氏はこの流れに抗し、国産小麦100%のパン、雑穀や玄米を使ったパン、こんにゃく、大豆など伝統的な食材を取り入れたパンなど、次々と新しい商品に取り組む。販路は、自然食品店や生協ばかりでなく、大手スーパーなどにも広がっている。
独創性のある大橋氏の発想と行動を、筆者は丹念に追いかける。大橋氏の熱意を感じると共に、日本の食生活におけるパンの意味を考えさせられる。

『朝日新聞』(2003年7月25日より)


パンづくりの込めたいのちへの想い
☆日本で穫れた恵みで作った日本のパン、日本の食文化に合うパンを作りたい。

 本を閉じた瞬間、このひとがつくったパンを食べたい、と思った。製パンメーカー社長・大橋雄二さんだ。パンづくりには不向きだと言われていた国産小麦を使ったパンを開発し、その後も、日本の食材を生かすユニークな新商品を生み出し続け、注目を集めている。子どものアレルギーがきっかけで大橋さんのパンを知った著者が、その人物像に迫る。 幼少期からの血友病、左足の切断……。常に死を意識する生活のなか、10代で出会った玄米菜食のよさが、大橋さんのパンづくりの原点となる。「食べものイコール人間の身体。だから、食べものをいかに『よいもの』にしていくかが大切」。食べものは土地に合ったものを、と省みられなかった食材に新たないのちを吹き込んでつくった和食に合うパンは、大橋さんの人生そのものを表現している。
つくり手の情熱にふれ、わたしたちに食べもののありがたさを思い出させてくれる1冊。

『クーヨン』(2003年9月号より)


 まず脱帽したのは、その発送だ、国産小麦がパンに向かない原因は、グルテンという粘りけと弾力性のある物質が少ないからだ。ここで大橋氏はひらめく。「グルテンの含有量という物差しだけで、良い悪いを判断していいのか。食べ物には民族性があり、文化、風土がある。物差しは多種多様なものを測らなければいけない」
ふわふわパンを目標にするのではなく、国産の特性を引き出そうと努力する。その原点は、大橋氏が血友病というハンディがあったからだ。二十代前半で片足を切断、車いすが頼り。「一面だけでものの価値を判断するな」との戒めが読みとれる。柔軟な発想と行動力。壁にぶつかっている日本の食と農に、新たなビジネスモデルを示してくれそうだ。

『日本農業新聞』(2003年12月1日より)


このほか、『福島民報』(03年6月11日)、『福島民友』(03年6月12日)、『日経流通新聞』(03年7月12日)、『食べもの文化』(03年10月号)、『上毛新聞』(03年8月17日)、『食べもの通信』(04年4月)でも紹介されました。

福島・岩瀬書店の売上ベスト1位(『福島民友』03年6月22日発表)になりました。
福島・岩瀬書店の売上ベスト2位(『福島民報』03年6月29日発表)になりました。
農水省地下書籍売場(農林生協)の月刊ベストで7位になりました(03年7月20日~8月19日)。