海田能宏(京都大学名誉教授) 編著
A5判/350ページ/本体4200円+税
2003年10月/ISBN 978-4906640683
外来の技術ではなく、在地の知恵としての技術と人材を活かした農村開発とは、十数年にわたってバングラデシュの農村で村びとと深く交流しつつ定点観測・調査した共同研究と著者たちの実践の集大成。
まえがき
第Ⅰ部 農村開発とリンクモデル/海田能宏
第1章 農村開発のモデルプロジェクト
一 村びとががんばったナショナル・セミナー
二 多様な村びとが自由に議論するユニオン連絡会議
三 村落委員会スキーム起工式
四 マタボール制こそ民主主義的村落統治の制度
五 定着してきたリンクモデル
第2章 バングラデシュの農村開発
一 バングラデシュという国
二 農村開発の歴史
三 現代の農村開発の諸相
第3章 リンクモデルへ向けて
一 農村開発に求められるもの
二 リンクモデルへの道
第Ⅱ部 リンクモデルの構成要素
第1章 マタボールたちと在地の農村開発/安藤和雄・内田晴夫
一 農村開発の視点と問題
二 D村のマタボール
三 マタボールたちによる農村開発の経験
四 アクション・プログラム
五 「在地の農村開発」をめざして
第2章 ベンガル・デルタの村落形成についての覚え書/河合明宣・安藤和雄
一 自然村的小集落=パラの形成過程
二 集落単位としてのパラの特徴
三 移住と集落形成
四 農村開発におけるパラの今日的意味
第3章 オストドナ村農村開発顛末記/ 矢嶋吉司・河合明宣
一 村びとのニーズへのアクセスの努力
二 行政の開発への関与のあり方をめぐって
三 A村にはA村のニーズと夢がある
第4章 農村開発におけるマイクロ・クレジットと小規模インフラ整備/藤田幸一
一 ふたつの農村開発政策
二 マイクロ・クレジットの盲点
三 グラミン銀行の成功と限界
四 小規模農村インフラ
五 公共経済に結びつくような小規模インフラを
第5章 将来計画へのプロポーザル/海田能宏
一 JSRDEモデルのかたち
二 新しいパイロット事業への提案
第Ⅲ部 農村開発における「技術」
第1章 農村水文学 /内田晴夫・安藤和雄
一 農村道路建設計画のための農村水文学的アプローチ
二 ロハジョン川河岸侵食防止プログラム
三 もうひとつの技術の可能性
第2章 バリ・ビティをとおして見た農村開発/吉野馨子
一 農村開発におけるバリ・ビティの意味に注目
二 役割と機能に注目して
三 村びとの生活とバリ・ビティの植物のかかわりの深さ
四 外部からの技術投入ではなく「村からの発想」へ
第3章 風土の工学/ 海田能宏
一 農学的適応と工学的対応
二 「歴史的」な外来技術の受入れとうわすべり
三 「風土の工学」の風景
四 ソフトサイエンスとしての「風土の工学」
第Ⅳ部 農村研究
第1章 コミラ農村の農地流動・労働力・小農経済 /宇佐見晃一
一 どちらも兼業の小農村落
二 流動化する農地
三 農村に吸収される労働力、農村から押し出される労働力
四 農業経営の扶養力
五 農村経済の循環
六 農外所得、雑業振興、農地貸借が握る農村開発
第2章 村と町のインターアクション /海田能宏、ケシャブ・ラル・マハラジャン
一 農村発展に対する幻想と私たちの調査
二 地方の拠点都市との経済的なつながり
三 通勤と出稼ぎの村
四 農外就業と町が握る農村の発展
第3章 就業機会の変容にみるバングラデシュの農村-都市関係/向井史郎
一 調査の背景
二 バングラデシュの都市と農村の関係
三 農村における家族の分類
四 就業をめぐるメカニズム
五 農村内諸問題の解決の方向と都市一極集中を避ける方策
第4章 バングラデシュ村落社会と村落研究/野間晴雄
一 ベンガル型村落の「発見」とその掌握
二 英領期の村落研究と農村開発
三 V-AIDの顛末と「コミラモデル」の実験
四 村落の権力構造と社会組織
あとがき
JSARD、JSRDE、PRDPプロジェクト関連文献リスト
索引
書評オープン 『農文研通信』(2004年・No.38より) そのほか、『オルタ』(04年2月号)、『農業と経済』(04年3月号)、『農林水産図書資料月報』(04年3月)で紹介されました。
1986年からJICAの事業として継続的に実施されているバングラデシュの農村開発プロジェクトは、試行錯誤のなかで育て上げられたボトムアップ型行政システム「リンクモデル」を軸とした全国展開の段階に達し、現在も進められている。対象をしぼりり込んだ草の根的な援助活動でもなく、一過性の開発プロジェクトでもない。「地生え」の農村開発を根づかせる仕掛けづくりの試みだ。本書は、この日本-バングラデシュ共同実践研究の成果本である。
第Ⅱ期以降に収録された12編の学術論文には、それぞれに農村社会や農業技術などについての独自の視点による分析や農村開発の実践へ向けたアイディアが盛り込まれている。それらによって提供される「リンクモデル」「在地生」「風土の工学」などの鍵となるコンセプトを契機として、実際に農村開発プロジェクトが動いていく。
そのありさまの一部始終を、プロジェクトのたどってきた道筋が述べられた第Ⅰ部と各論部に付された解題によって読者は知ることになる。「研究」との間合いの撮り方は各著者によりさまざまだが、結果として「実践」に収束していく事実とその過程は示唆に富む。
こんなふうに紹介すると、堅いタイトルともあいまって、ガチガチの学術書を想像される方もいるかもしれないが、そうではない。むしろ、バングラデシュ農村を舞台として調査研究や村づくりに活躍する(かつての)若手研究者や大学院生あるいは現地の村人や役人らを、チームの年長者である編者が描いた長編ルポルタージュだ。