野中春樹 著
四六判/264ページ/本体1900円+税
2004年5月/ISBN 978-4906640782
ボルネオ島の先住民宅にホームステイする修学旅行は、参加した高校生たちの生き方を大きく変えた。
本物の体験の提供によって、考え、行動する人間を育ててきた教育の全容を担当教員が詳しく紹介する。
はじめに
第1章 ロングハウスで暮らす
1 サラワク初体験
旅の始まりはクチン
サロンに目移り
現実のものとなった熱帯雨林
日本につながるアブラヤシ・プランテーション
イバンの人たちとの出会い
市場の衝撃
2 ロングハウスでの六日間
歓迎の儀式
マンディ ニャマイ!
廊下で晩ご飯
豚の解体と「命をいただきます」
これ何だ?──カルチャーボックス
市場の衝撃
農園と果樹園
お好み焼きづくりから考える
イバンの人たちへのインタビュー
異文化理解のスタートライン
深夜のカエル捕り
自分で選んでレッツゴー
①農耕体験
②漁業体験
③小学校の訪問
ジャングルの散歩
さよならパーティー
また戻っておいで
3 旅の終わり、新しい旅立ち
旅を振り返って
一人ひとりの思い
スタッフのメッセージ
これから始まる
第2章 ぼくが、この修学旅行を企画した理由
1 ブラジルで自分を発見
貧しい人のために働きたい、人間的に成長したい
心が解き放たれた
共にいること、自立心を育てること
教えるはずが教えられた
「内」と「外」を見つめる
2 教育とは希望を育てること
思いがけず教員へ
生徒たちにいきいき生きてほしい
「解決したいという願い」をもつ生徒を育てたい
3 サラワク修学旅行の誕生
それは出会いから生まれた
不安を上回る、本物の体験へのこだわり
実施に向けた事前対策
生徒と保護者の思い
実施に向けた役割分担
第3章 徹底した事前学習
1 事前学習をつくる
2 テーマをもつ
生徒も体験を伝えるガイダンス
熱い思いを伝える選抜テスト
3 交流を深める
新聞の発行でつながりが増す
日本を紹介する方法を考える
4 サラワクと出会う
マンガを使ってサラワク入門
言葉をとおしてイバン文化を学ぶ
実物に触れて感じる熱帯雨林の生活
熱帯雨林と私たちの深いつながりを知る
さまざまな問題は相互につながっている
5 学びの多い修学旅行を成功させる秘訣
学びの多い修学旅行にするための一〇のヒント[生徒向け]
学びの多い修学旅行をつくるための七つのポイント[教員向け]
第4章 感動を伝える
1 事後学習のプログラム
2 ワークショップに参加
ロールプレイ~パーム油から世界が見える
熱帯雨林を破壊しないために何ができるかを考える
3 中学生に授業し、思いを伝える
わかりやすい授業を工夫
苦労して体験を伝える
4 高校生と交流し、アジアを広く知る
5 研究会で発表し、体験を深める
6 オリジナルな体験記をつくる
第5章 生き方が変わった
1 進路へのさまざまな影響
広い視野で世界を考えるようになった
自分と世界がつながった
自分のなかに核ができた
2 進学先や仕事で体験を活かす
日本の文化を再認識し、まちづくりへ取り入れる
多様性が身につくとゆきづまらない
今はマレーシアづけです
たった一〇日間で人間が変わった
自分に合った生き方を見つけるきっかけ
経験の大切さを子どもたちに伝える
3 保護者にとってのサラワク
感謝でいっぱい
すべてを物語る子どもたちの笑顔
夢や生きがいの実現につながる
人間が成長し、責任感が強くなった
第6章 体験を生きる力に変える方法
1 つながりに気づく
共同体と自然とのつながりを感じる
茶色い川と日本の生活の深い関係
イバンの豊かさと日本の豊かさ
2 命(生)を感じる
自然との境界線がない
命の大切さを知
「生の感覚」を体験する
3 生きる力を引き出す
学びを深める事前学習
伝えることで体験が自分のものになる
行動する生き方を学ぶ
日常的なカリキュラムの工夫
生きる力を引き出すのがおとなの役割
サラワク修学旅行の日程表
おわりに
参考文献
書評オープン 『朝日新聞』(2004年6月9日より) 本は、旅先の東部サラワク州のルポから始まる。川岸の長屋「ロングハウス」で暮らす先住民族イバンは、村じゅうで子どもを育て合い、食べ物を分け合う。「貧しい」「遅れた村」…。旅立つ前の先入観を、生徒たちは疑い始める。 『中國新聞』(2004年6月11日より) 本書はある私立高校が’98年以来行っているユニークな修学旅行の記録だ。行き先はボルネオ島の先住民が住むロングハウス。旅行のコースは選択制で、参加者は約20人。6日間のホームステイ。ここで生徒達は、世界を知り、自分を知る。「こんなに人は変わる!」が著者の感慨。 『週刊現代』(2004年7月3日号より) 子どもたちから学んだ人間の可能性 毎年、修学旅行の季節になると頭が痛い。埼玉県内の公立高校の教員となって一〇年目を迎える私は、三年前から修学旅行を企画・運営する役割を担ってきたのだが、あらゆる段階で壁にぶつかってきた。(中略) 『オルタ』(2004年7月号より) 『ウェンディ広島』(04年7月)、『自然と人間』(04年7月)、『神奈川新聞』(05年7月24日で紹介されました。 ★テレビ朝日系「素敵な宇宙船地球号」で9月25日(日曜、23:00~23:30)で放映!
マレーシアの先住民の村でのホームステイを修学旅行に取り入れている広島工業大附属広島高校(広島市)の野中春樹教諭(51)が、これまでの学習過程や生徒たちとの体験をまとめた「生きる力を育てる修学旅行」(コモンズ)を出版した。
現地では、食事のために間近で豚の解体作業が行われる。泣き出したりしばらく食べられなくなったりする生徒もいる。ジャングルを歩き、植物を食べるなどして自然の実りを実感。家族や集落という共同体の大切さも改めて感じていく生徒たちの姿が描かれている。
野中さんは「生徒たちは旅行で『命』を体感する。ものの見方も確実に変わってきたように思う。子どもたちは一つの体験を通じて変化し、成長することを知ってもらいたい」と話していた。
生徒の感想文やスナップ写真に加え、サラワクの習慣やイバン語なども学ぶ、丹念な事前学習も紹介。保育士など人に接する仕事に目を向けだす生徒や旅の感動を他人に伝えようと動き始めた生徒など、帰国後の心模様も追いかけている。
評者 結城孝子(高校教員)
必要なことは生徒たちの生き方や価値観が豊かになるような旅行にするために、私たちに何ができるのかを考えることであるはずだ。と、頭ではわかっていても、日々の課題、あふれる仕事量の中で多くの教員がもがいている。私もその一人だ。
広島工業大学付属広島高校の教員である筆者は、五年前からマレーシアの先住民族の村でのホームステイを修学旅行に取り入れている。本書はその企画・立案から、実際に子どもたちが先住民と出会い、生活し、そしてまた日本に帰ってきてからまでの詳細な記録である。
日本の生活に浸かりきった子どもたちにとって、東部サラワク州の川岸の長屋「ロングハウス」に住む先住民族・イバンの人びとの生活は、言葉や食べ物から衣服、風習にいたるまで、すべてが「初めての体験」だ。(中略)
見るもの、聞くもの、語りかけられる言葉の一つひとつが、子どもたちの存在そのものを揺さぶり続ける。本書の魅力は、こうした姿を生徒たち自身の記録をそのまま引用する形で書かれている点だ。
印象的だったのは、日本の子どもたちとイバンの人びとの異文化交流プログラムだ。お互いがそれぞれ聞きたいことを質問しあう中で、生徒たちはイバンの人からこう問われる。
「どうして、先進国である日本の高校生が、こんな田舎のロングハウスに来ようと思ったのですか?」
思わず息を飲んだ。もし私自身が同じことを問われたら、何と答えるだろう。あるいは自分の生徒たちだったら? あれこれ考えを巡らせてみるが、頭で考えるのと「現地に行って体験する」ことはまったく違うのだ。目の前のイバンの人に向かって、「将来、開発途上国を助けたいから」「便利な生活を送れる日本が本当に豊かなのかを考えたいから」などと、目の前のイバンの人たちに向かって一生懸命語る生徒たちの姿を思い浮かべてそう確信する。
私にとって、このような修学旅行が現実に行なわれていること自体が大きな驚きだった。何よりも、筆者がマレーシアへの修学旅行を提案したとき、校長をはじめ教員も保護者も、反対しなかったこと。むしろアジアを知り、命を知る旅に子どもを送り出すことの意義に賛同する声が多かったことは、最大の驚きであり羨望でもあった。旅行中だけでなく、事前学習や事後の報告なども一貫していて、多くの学校で見過ごされている修学旅行の可能性を最大限に引き出している。
実は、同僚の数人に本書を勧めてみたところ、私同様に「ぜひこれに学ぼう」という感想は半数で、残りの半数は「こんなにうまくいくわけがない」という冷めた反応だった。私自身、場所や出会う人びとは違っても、こんな修学旅行を実現してみたいと強く思っているが、いざ行動に移すとなると本当に自信がない。まずは私を含めた教員自身が、このツアーに参加させてもらい、「人間ってこんなに変わるんだ」ということを体験した方がいいと強く感じた。
番組タイトル『生命(いのち)の森の修学旅行』