村井吉敬(早稲田大学教員)著
A5判/240ページ(オールカラー)/本体3000円+税
2009年4月/ISBN 978-4861870521
※第2686回 日本図書館協会選定図書
インドネシアを中心に33年間、人びとの生活や開発の現場をつぶさに見てきた著者が、
プロ級の写真とともに伝える東南アジアの風景と真実。
プロローグ 33年の夢いちばの風景
農村を歩く
乗り物の世界──ベチャとタクシー運転手と
エビとナマコと南海産品と
海と船に魅せられて
国家・国軍・国境を考える
ODA──3つの現場から
開発最前線の風景
トゥーリズム再考
人びととの出会い
書評オープン 『公明新聞』(2009年5月11日号)より 東南アジアは、地理的にも日本に近く、政治や経済の関係も深い。日本からの訪問者も多く、開発援助の面でも貢献が大きい。たとえば中東やアフリカとは比べものにならないほど、色濃く日本の影が落ちている。 『朝日新聞』(2009年6月7日)より 1975年から東南アジアを研究フィールドにしてきた著者が、その33年間を文章と写真で描き出した。 『週刊朝日』(2009年7月24日号)より 『公明新聞』(09年5月11日号)、『出版ニュース』(09年5月中・下旬合併号)、『ふぇみん』(09年6月5日 No.2892)、『朝日新聞』(09年6月7日))、『週刊読書人』(09年6月19日号)、『週刊朝日』(09年7月24日号)、『信濃毎日新聞』(09年10月11日)で紹介されました。
「エビと日本人」などの著作で示されるように、日本有数の東南アジア研究者として知られる著者が、これまでの東南アジアへの旅の集大成として出したフォトエッセー。(中略)「『ぼくが歩いた東南アジア』が流れ来て、流れ去った『風景』」として人々の日常を、またある時は国家や軍の姿を自身の網膜に焼き付けた時間だ。本書ではそうした際に撮ってきた膨大な写真の中からえりすぐりの326枚を掲載している。また「プロローグ33年の夢」から「人々との出会い」まで11のテーマで、庶民の暮らし、豊かな自然や風景、それらを踏みにじる軍政や開発、第二次世界大戦の占領から現在のODAに至る日本の関与の問題まで、33年間の思い出を交えながら書き下ろしている。その筆致や時に優しく、時に厳しい。/カメラがデジタル化したことも合わせ、見たりとったり記録する行為からかつてあった丁寧さが失われて息、安易に流れていると自戒。そのうえで故・鶴見良行氏(「バナナと日本人」など)の「自腹を切って旅せよ」「会議ばかり出るな」の戒めを胸に「ゆったりとしたなかで丁寧な歩き方を大切にしていきたい。自らのありようを照らしだしてくれる、東南アジアの当たり前の人々の暮らしを、じっと眺め続けていきたい」と今後の東南アジア歩きについて語る。
それだけに、この地域を知ることは重要であるが、つきあい方はむずかしい。学術的な研究の場合でも、容易に客観的なふりはできないその地域と真正面から向き合ってきた著者が、34年前にインドネシアに初めて留学して以来、東南アジア諸国で撮りためた300枚以上の写真にエッセーを書き下ろした。
どこの町でも市場が面白いという。活気にあふれた売り子たち、行き交う客の喧噪、流通する多様な産品が、その社会の暮らしと経済を映し出す。値段は交渉で決まるが、さすがに地元の人ほどは安く買えない、と著者は正直に言う。
インドネシアでは、市場で必ず売られている生活必需品9種類をスンバコと呼ぶ。米、塩、白砂糖、食用油、ミルク、鶏卵は当然と思えるが、牛肉・鶏肉、トウモロコシ、灯油となると地元の特色が出てくる。
社会経済を専門とする著者は、日本で消費されるエビが東南アジア現地と直結している実態を追究してきたが、本書では、エビの生産地を探す旅の様子が書かれている。「勘」がさえて次々と大事な調査地を見つけるあたりは、非常に面白い。
これまで著者は日本からの開発援助についても鋭い批判を展開してきたが、本書はエッセーだけに率直な気持ちが語られている。何事にも成功と失敗があるのは当たり前で、援助がマイナスをもたらした時はそれを直視する方が税金の使い方としても有効ではないか、という指摘には、素直に首肯できる。
現在の東南アジアは、発展がめざましい。著者がかつて撮影した牧歌的な姿は、あちこちですでに失われている。「世界で一番夕日が美しい」といわれた海辺でさえ、今や近代的なビルで風景が損なわれているという。本書は、近くて遠い東南アジアについて、光と影を会わせて考えさせてくれる。
出会った人々やその生活を中心に、エビやナマコを追っての旅、ODAの現場からの報告も記す。ODA実施では、被害を受けている人の存在を視野に入れる必要があると記し、大規模ダム建設の現場などを紹介する。