古沢広祐・佐久間智子訳
四六判/328ページ/本体2800円+税
2009年5月/ISBN 978-4861870569
生産主義、ライフサイエンス、エコロジーという3つのパラダイムが、食料政策と危機に立つ人びとの健康にどんな影響を及ぼすのか。フード・デモクラシー=食の民主主義は成り立つのか。膨大な資料と具体例をもとに、食と健康の未来をラディカルに論じる。
日本語版によせて
序章 「食の平和」とフード・ウォーズ
第1章 フード・ウォーズとは何か
第2章 食べ物と健康の深い関係
第3章 食がもたらす病気へのこれまでの対応
第4章 フード・ウォーズ・ビジネス
第5章 消費者の文化をめぐる戦い
第6章 食料生産の環境への影響――集約化という病
第7章 食の民主主義か統制・支配か
第8章 新しいパラダイムに向けて
<訳者解説>フード・ウォーズの時代 古沢広祐
書評オープン 「人類社会の危機的状況に対して、本書は『食と農の総合政策』こそが重要な鍵を握ると問題提起する。それは、病気や不健康への対応という健康政策(人間の健康の確保)にとどまらず、農業や食品関連産業などの産業政策、貿易など国際的枠組みを調整する経済政策、さらに生態系などの環境破壊を回避する環境政策(環境の健全性の確保)につながる総合政策として展開すべきであるという」(訳者解説、p323)。 農は農業という産業からのみとらえるのではなく、地域(コミュニティ)や食文化や健康、自然・景観等とむすびついたものであるという認識――これこそ日本の心ある農業関係者が一貫して持ち続けてきた視点である――にたてば、本書の主張するところの正当性も理解できるだろう。 『電子耕』(No.260、09年05月14日号より) 国内で起きている食の安全、消費者重視、環境配慮などの問題は世界各国に共通する。食と健康、環境問題の視点から問題を解決しようとしても、巨大食品産業を保護する動き、単純な自然観と個人主義に基づく食料システムがこれを妨げている。このため、政府が中心的な役割を担い、民主的な食料・健康の政策・統治が必要であると提言する。文明的な矛盾に正面から切り込んだ野心作。 『日本農業新聞』(2009年5月25日) 大倉さんが今後注目しているのは、食や農の世界的な動きを分析した本だ。 『朝日新聞』(2009年8月16日)
そして「フード・ウォーズ」を終焉させるうえで鍵となるのは「フード・デモクラシー(食の民主主義)」である。問題の真の解決には「統制・支配」ではなく、多様な見方や利害への配慮、オープンな議論、反対意見や代替案への考慮といった民主主義的なプロセスによる改革が必要不可欠なのだ。
食と農、そして健康の未来を考えるうえで示唆に富んだ一冊である。
食に関する世界の潮流は、これまでの生産重視の枠組み(ライフサイエンス・パラダイム)と、環境・生態に基づく枠組み(エコロジー・パラダイム)へ移ろうと、せめぎ合いをしている段階と大胆に位置づける。(中略)
文明的視点で、食と健康の危機を乗り越える方法を示し、類書を見ない。生産者、消費者、行政関係者に読んでほしい一冊だ。
「今年は、食料問題を文明的な視点で論じた『フード・ウォーズ』(ティム・ラングほか著、コモンズ)という本が異彩を放った。こうした新たなパラダイムを提示する本が今後、話題になるだろう。財政負担などの経済原則だけでない見方に普通の人々が関心を寄せるのでは」という。