勝俣誠、マルク・アンベール編著
四六判/280ページ/本体1900円+税
2011年5月/ISBN 978-4861870781
格差が広がり,原発が破綻し、
地球環境の限界が明らかになるなかで、
つましくも、豊かで、幸せな暮らしをどう創るか。
簡素な生き方から見えてくる共に楽しく生きられる
<コンヴィヴィアル>な世界を11人が多様に描き出す。
◇ 3・11 フクシマへのメッセージ ◇
フクシマからコンヴィヴィアリズムへ アラン・カイエ
フクシマ原発災害で日本が変わる? セルジュ・ラトーシュ
楽しい世界へダウンサイジングしよう マルク・アンベール
一つの文明の終わり 西川 潤 11
ヒロシマからフクシマまで「だいちとうみとにんげんをかえせ」 勝俣 誠
まえがき 脱成長への道は可能だ マルク・アンベール、勝俣 誠
第Ⅰ部 簡素に生きる
【1】〈脱成長〉の道──つましくも豊かな社会へ セルジュ・ラトゥーシュ
1 数量化された最大幸福の破綻
2 共愉にあふれるつましさのなかで再発見される幸福
3 〈脱成長〉の〈道〉
【2】 〈脱成長〉の正義論 中野 佳裕
1 祝島に根付く贈与の文化──社会の持続的な再生産の論理として
2 原発建設計画と危機にさらされる生態系
3 生存をかけた住民運動が示す日本の経済発展の構造的問題
4 社会正義を再構築する
5 〈脱成長〉社会へ
【3】 南北格差と「南」の豊かさ 勝俣 誠
1 「南」は本当に貧しいのか
2 「南」の内包する二つの豊かさ――認識論からの考察
3 「開発国家」ニッポンの追いつき論の限界――経済学からの考察
4 東南アジアの追いつき論――一九六〇年代初頭の映像『メコン』を手掛かりに
5 「南」の追いつき論の限界――「開発」概念再考の切り口
6 南は南へ、北は北へ――追いつかなくていい世界に向けて
【4】 良き生活へどう変えていくか パトリック・ヴィヴレ
1 維持不可能な、過剰な/節度のない生活
2 満たされない心──過剰な生活の原因と産物
3 よりよい分かち合いへ移行するための戦略
4 伝統と近代との対話
5 トランジション・タウンの三脚の論理
第Ⅱ部 コンヴィヴィアリズムが拓く〈世界〉
【1】 ラディカルな社会主義としてのコンヴィヴィアリズム アラン・カイエ
1 分かち合いの技法としてのコンヴィヴィアリズム
2 コンヴィヴィアリズムの最大の魅力
3 われわれのあらゆる諸悪のいくつかの原因
4 普遍化し、急進化した社会主義へ向けて
5 世界を守る
【2】 生命系と地域主義に立脚した経済の実現に向けて 丸山 真人
1 四半世紀前の問題提起
2 狭義の経済学から広義の経済学へ
3 生産力のポジとネガ
4 生命系の経済と地域主義
5 現実に応用できる広義の経済モデルへ
【3】 社会主義も資本主義も超えて マルク・アンベール
1 「優れた」社会を再構築するための道
2 社会にとって必要な新しい理想像
3 妥当かつ公平な社会
4 富を創造し、分かち合う社会
第Ⅲ部 本当の幸福について考えてみよう
【1】 社会的責任の分かち合いのための政策的枠組み──未来の展望の再生 ジルダ・ファレル
1 「生活の質の向上」への道
2 熟議に基づく政治メカニズム
3 合意形成と責任
【2】 生活充足度の新たな指標を地域でつくる ミシェル・ルノー
1 地域別生活充足度指標の作成
2 アンケート結果と作業手続きに関する基礎的な考察
3 相違を明確にし、尊重する
【3】 生活の質の向上のためのアプローチ サミュエル・ティリオン
1 危機から脱出する眼差し
2 「進歩」を測るアプローチ
3 充足した生活のための八段階
4 市民的かつ民主的知性への信頼
【4】 日本人が本当に幸福になるために――生活の豊かさの測り方 西川 潤
1 幸福への関心
2 一人あたりGDPと生活の満足度のギャップ
3 幸福度を表す社会指標――国連の人間開発指標の意味
4 区民総幸福度、GNH、足るを知る経済
5 中道こそが幸福への道
6 倫理の再興
あとがき 勝俣 誠、マルク・アンベール
セルジュ・ラトゥーシュ(Serge Latouche)
1940年生まれ。経済学者、哲学者。パリ第11大学名誉教授。邦訳書『経済成長なき社会発展は可能か?――〈脱成長〉と〈ポスト開発〉の経済学』(中野佳裕訳、作品社、2010年)。
中野佳裕(なかの・よしひろ)
1977年生まれ。国際基督教大学助手・研究員、立命館大学非常勤講師。開発学博士。専攻:国際開発論、平和学。主論文「ポスト開発思想の倫理――経済パラダイムの全体性批判による南北問題の再検討」『国際開発研究』第19巻第2号、2010年。訳書『経済成長なき社会発展は可能か?――〈脱成長〉と〈ポスト開発〉の経済学』。
勝俣誠(かつまた・まこと)
1946年生まれ。明治学院大学国際学部教授。開発経済学博士。専攻:国際政治経済論、アフリカ地域研究。主著『アフリカは本当に貧しいのか――西アフリカで考えたこと』(朝日新聞社、1993年)、『グローバル化と人間の安全保障――行動する市民社会』(編著、日本経済評論社、2001年)。
パトリック・ヴィブレ(Patrick Viveret)
1948年生まれ。哲学者。元フランス会計院司法官。国際プロジェクト「人間性の対話」共同提唱者。
アラン・カイエ(Alain Caille)
1944年生まれ。パリ第10大学教授。経済学博士、社会学博士。邦訳書『功利的理性批判――民主主義・贈与・共同体』(藤岡俊博訳、以文社、2011年)。
丸山真人(まるやま・まこと)
1954年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科教授。専攻:経済人類学、人間の安全保障。主著『多元的経済社会の構想』(共編著、日本評論社、2001年)、『アジア太平洋環境の新視点』(共編、彩流社、2005年)。
マルク・アンベール(Marc Humbert)
1947年生まれ。レンヌ第1大学教授、日仏会館内フランス現代日本研究センター長。経済学博士、経営学博士。邦訳論文「人間と社会のための新しい経済学的知に向けて」『情況』2002年10月号。
ジルダ・ファレル(Gilda Farrell)
1950年生まれ。経済学博士。欧州評議会社会的紐帯研究開発局長。
ミシェル・ルノー(Michel Renault)
1963年生まれ。レンヌ第1大学准教授。研究分野は経済思想史、交換の社会関係など。
サミュエル・ティリオン(Samuel Thirion)
1952年生まれ。農学者、社会経済学者。欧州評議会社会的結合・研究促進部局行政官。
西川潤(にしかわ・じゅん)
1936年生まれ。早稲田大学名誉教授。学術博士。専攻:国際経済学、開発経済学。主著『人間のための経済学――開発と貧困を考える』(岩波書店、2000年)、『データブック貧困』(岩波書店、2008年)。
書評オープン 『日本農業新聞』(2011年5月23日) 本書は昨年日本で開催されたシンポジウムをきっかけに編纂され、日本とフランスを中心とする11人の研究者による論文を収録。そこに共通する問題意識は「より良く、幸せに感じられる社会をどう共につくっていけばいいのか」というもので、3・11後、あらためて強く関心を呼ぶテーマと思われる。 『ふぇみん』(2011年7月5日) 『日本農業新聞』(11年5月23日)、『オルタ』(11年7・8月号)、『ふぇみん』(11年7月5日号)、『出版ニュース』(11年7月上旬号)で紹介されました。
質素であっても、豊かで幸せな暮らしができる社会づくりのため、経済成長優先社会の根源的な見直しを迫る。国内外の研究者11人がそれぞれの視点から論述する。
これまでの社会は、幸福を計る指標として国内総生産(GDP)などを使う。だが「GDPが増大しても、みんなが幸福になっていない」と矛盾点を挙げ、これまでの経済思想などをひもときながら、「脱成長」への変換を求める。また、本当の豊かさとは、質素な生き方を探る中から見えてくると言う。
事例では、ヒマラヤの小国ブータンが国民総幸福量(GNH)を国是にして「幸福の鍵は感情的、精神的な成長にこそ見いだされる」との考えを打ち出したこと、東京都荒川区が「幸福実感都市」を掲げて生涯健康、子育て教育などを重視したことを紹介する。今後の社会のあり方を考えさせる。
1人あたりのGDPが上がり、物が豊かにあることが生活の充実の第一条件と思われていた時代もあった。だがこうした意識がすでに過去のものであることを西川潤(国際経済学)は、内閣府による世論調査(「物の豊かさ」と「心の豊かさ」のどちらを重視するか)や幸福度調査をもとに論じる。山口県祝島の人々の生存条件を断ち切る原発計画の試みを通して、経済発展の持つ歪みを照らす中野佳裕(国際開発学)の労作など、いずれも読み応えがある。
今もことあるごとに「経済成長」を説くこの国の有力政治家や経済界の面々にも読ませたい