生物多様性を育む食と農 ——住民主体の種子管理を支える知恵と仕組み

西川芳昭編著
A5判/240ページ/本体価格2500円+税
2012年3月/ISBN-10: 4861870925/ISBN-13: 978-4861870927

農業に欠かせないタネの多様性をどう守っていくか。
農家や市民が参加できるグローバルな仕組みをどう創り出すか。
内外の具体的な事例にもとづく学際的な研究の成果。

 

目次


序章 農業のための生物多様性の管理とその制度の重要性…西川芳昭


第1部  農業生物多様性管理のローカルな仕組みと知恵を支える制度
第1章 種子を届ける「街のタネ屋さん」の役割…根本和洋
第2章 農業生物多様性の管理に関わるNPOの社会的機能と運営特性
――在来品種の保全・利用を進める団体を事例として…冨吉満之・西川芳昭
第3章 遺伝的侵食を防ぐ小さなひょうたん博物館
――ケニアにおけるひょうたんの多様性の保全活動…森元泰行
第4章 農家は作物の品種をどのように選んでいるのか
――ブルキナファソで外部者が学んだこと…西川芳昭・槇原大悟・稲葉久之・小谷(永井)美智子
第5章 生物多様性維持へのカナダの挑戦
――水利権と伝統知からのアプローチ…松井健一
第6章 サゴヤシ利用の変遷と多様性の管理…西村美彦


第2部  農業生物多様性管理の国際的制度とローカルな活動をつなぐ仕組み
第7章 生態系サービスの経済評価
――生物多様性条約と温暖化防止条約の比較の視点から…藤川清史
第8章 エチオピアにみる作物種子の多様性を維持する仕組み
――ローカルとグローバルをつなぐNGOのコミュニティ・シードバンクを事例に…福田聖子
コラム ネパールにおける参加型植物育種とは…鄭せいよう
第9章 食料農業植物遺伝資源の保全と国際利用の俯瞰
――グローバルな利益配分と地域組織の分析および倫理面の検討…渡邉和男
コラム 食料農業植物遺伝資源に関する条約について…渡邉和男
終章 農業生物多様性を管理する多様な組織・制度のネットワーク構築に向けて…西川芳昭


あとがき 今後にむけて何が必要なのか…西川芳昭
執筆者一覧

 

著者プロフィール

西川芳昭(にしかわ・よしあき)【序章・第2章・第4章・終章】

1960年、奈良県生まれ。1984年、京都大学農学部農林生物学科卒業。1990年、バーミンガム大学公共政策研究科修了。博士(農学)。国際協力事業団(現国際協力機構)、農林水産省などを経て、2008年より名古屋大学大学院国際開発研究科教授(農村・地域開発プログラム)。専門は農業における生物多様性管理・農村コミュニティ開発。主著=『地域文化開発論』(九州大学出版会、 2002年)、『作物遺伝資源の農民参加型管理』(農山漁村文化協会 2005年)。COP10では、国連機関とNGOの両方で事前登録をしていたが、当日どちらかを選ぶように迫られ、NGOメンバーとして出席した。

根本和洋(ねもと・かずひろ)【第1章】
1967年、東京都生まれ。1995年、信州大学大学院農学研究科修了。1992年より青年海外協力隊隊員としてネパール国農業研究評議会に配属され、高地作物の遺伝資源収集、評価作業に従事。岐阜大学大学院連合農学研究科博士課程中退後、1997年より信州大学農学部助手。2002年、ワーゲニンゲン大学(オランダ)在外研究員。現在、信州大学大学院農学研究科助教。専門は植物遺伝育種学。共著=『奪われる種子・守られる種子』(創成社、2010年)。アマランサスをはじめとするマイナー作物の遺伝育種学的研究を中心に、アブラナ科在来品種の保全遺伝学的研究も行っている。

冨吉満之(とみよし・みつゆき)【第2章】
1980年、福岡県生まれ。2006年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(栽培植物起原学)。2010年、京都大学大学院地球環境学舎博士課程研究指導認定退学。博士(地球環境学)。京都大学生存基盤科学研究ユニット特定研究員などを経て、2011年より京都大学地球環境学堂研究員(環境農学)。専門は非営利組織論・環境経済学。主論文=「日本の農業・農村分野におけるNPO活動の現状と課題」(博士論文)。全国のNPOや農業者を対象としたフィールド調査を実施している。

森元泰行(もりもと・やすゆき)【第3章】
1967年、東京都生まれ。1991年、東京農業大学農学部農業拓殖学科卒業。2004年、東京農業大学大学院農学研究科農学専攻博士課程修了。博士(農学)。ケニア国立博物館植物標本部、バイオバーシティ・インターナショナルを経て、2006年から同研究所(民族植物学-生物多様性)研究員。主論文=「ヒョウタン在来品種の多様性とその維持にかかわる文化的要因」(『生物の科学 遺伝』第58巻5号、2004年)。アフリカの農村の多様な在来作物や品種群の遺伝資源利用・管理に関わる農民の知恵や社会的メカニズムの研究を通じ、遺伝資源を守り利用する人びとの暮らしと健康の改善に資する活動を展開。

槇原大悟(まきはら・だいご)【第4章】
1970年、広島県生まれ。1993年、岡山大学農学部総合農業科学科卒業。2000年、岡山大学大学院自然科学研究科博士課程修了。博士(農学)。名古屋大学農学国際教育協力研究センター(ICCAE)研究機関研究員、JICA長期派遣専門家(アフリカ人造り拠点プロジェクト、ケニア)を経て、2007年よりICCAE准教授。専門は作物学・農業農村開発。現在は、おもにアフリカを研究フィールドとして、農民の生活向上、持続的作物生産、環境保全などに資する農業技術の開発と社会的側面に関する研究に取り組んでいる。

稲葉久之(いなば・ひさゆき)【第4章】
1978年、大阪府生まれ。2002年、筑波大学第三学群国際総合学類卒業。2010年、南山大学大学院人間文化研究科教育ファシリテーション専攻修了(教育ファシリテーション修士)。青年海外協力隊(セネガル:村落開発普及員)、名古屋市内のまちづくり団体を経て、2011年4月より特定非営利活動法人AMDA社会開発機構でアフリカ事業を担当。専門はコミュニティ開発、体験学習。学びを支援する関わり方に関心をもち、学び合う場づくり、ラーニング・ファシリテーションの実践を行っている。

小谷(旧姓:永井)美智子(こたに・みちこ)【第4章】
1982年、宮城県生まれ。2005年、新潟大学理学部生物学科卒業。2010年、名古屋大学大学院国際開発研究科修了。修士(国際開発学)。青年海外協力隊(ニジェール共和国:村落開発普及員)を経て、2010年より公益財団法人笹川記念保健協力財団にプログラムオフィサーとして勤務。

松井健一(まつい・けんいち)【第5章】
1969年、愛知県生まれ。2003年、カナダ、ブリティッシュ・コロンビア大学大学院歴史学科博士課程修了(Ph. D)。サイモン・フレーザー大学、ブリティッシュ・コロンビア大学歴史学科非常勤講師などを経て、2008年より筑波大学大学院生命環境科学研究科助教(持続環境学専攻)。専門は先住民族と水開発、水利権、環境史、農業政策、伝統知、環境倫理など。主著=“Native Peoples and Water Rights: Irrigation, Dams, and the Law in Western Canada”(マギル大学出版会、2009年)。現在は、カナダ、アメリカ、オーストラリア、国連大学の研究者らと水利権や伝統知について共同研究をしながら、社会的貢献度の高い研究成果をめざしている。

西村美彦(にしむら・よしひこ)【第6章】
1946年、群馬県生まれ。1969年、東京農工大学農学部植物防疫学科卒業。1997年博士(農学、筑波大学)。海外技術協力事業団(現国際協力機構)でネパールやインドネシアなどに農業専門家として勤務後、1997年より名古屋大学大学院国際開発研究科教授、2009年より琉球大学観光産業科学部観光科学研究科教授。専門は熱帯の作付・営農体系・農村開発。主著=『熱帯アジアにおける作付体系技術』(筑波書房、2009年)、『サゴヤシ』(共著、京都大学学術出版会、2010年)。インドネシア南東スラウェシ州の伝統的農村社会の農村開発を現地の大学と共同で研究している。

藤川清史(ふじかわ・きよし)【第7章】
1959年、兵庫県生まれ。1986年、神戸大学大学院経済学研究科単位取得修了。博士(経済学)。国際連合経済社会局、甲南大学経済学部などを経て、2007年より名古屋大学大学院国際開発研究科教授。専門は計量経済学・環境経済学。主著=『グローバル経済の産業連関分析』(創文社、1999年)。『国産化の経済分析』(共著、岩波書店、1998年)。

福田聖子(ふくだ・せいこ)【第8章】
1984年、岡山県生まれ。2006年、香川大学農学部生物生産学科(果樹園芸学専攻)卒業。青年海外協力隊(マラウイ、果樹)を経て、2011年、名古屋大学大学院国際開発研究科修了。名古屋大学大学院博士後期課程在学中。専門はアフリカにおける農業・農村開発。国際農業研究機関やNPOのインターンをはじめ、マラウイにおける農村女性の食品加工やエイズ遺児の支援活動も行っている。

鄭せいよう(てい・せいよう)【第8章・コラム】
1985年、中国吉林省生まれ。2009年、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(国際関係専攻)卒業。2012年、名古屋大学大学院国際開発研究科博士前期課程修了。グローバリゼーションや民主化・市場自由化が農業に与える影響を中心に学び、ネパールの農業における参加型開発プロジェクトに関する調査を行う。

渡邉和男(わたなべ・かずお)【第9章・コラム】
1960年、大阪府生まれ。1983年、神戸大学農学部卒業。1985年、神戸大学大学院修士課程修了。1988年、University of Wisconsin-Madison博士課程修了(Ph. D)。ペルー、アメリカ、近畿大学生物理工学研究所で植物遺伝資源の保全と利用をイモ類を中心に行ってきた。2001年より筑波大学遺伝子実験センター教授。現在は植物遺伝学とBiodiplomacyの学際研究に従事。主著=“Challenge of Plant and Agricultural Sciences to the Crisis of Biosphere on the Earth in the 21st Century”(Austin: Landes Bioscience, 2000)。遺伝資源の利用のために、バイオテクノロジー研究と生物多様性条約などの国際条約の交渉に関わっている。

 

書評

 

書評オープン

 食物繊維の多い精白していない穀物を中心に食べることで、体調を整え免疫力や自然治癒力を高めるとされるマクロビオティックの考えに基づいたメニューを紹介している。
圧力鍋や土鍋を使った玄米の炊き方に始まり、小豆を入れたり、根菜を炊き込んだりする方法などを紹介する。
カボチャとアワを煮た「かぼちゃミレット」、「タマネギの味噌煮」「青菜とニンジンの温サラダ」「厚揚げとゴボウの味噌煮」といったメニュー88品が並ぶ。 決して特別な食材は登場しない。普段の料理本として使える。

『日本農業新聞』(12年1月18日)


 名古屋市で2010年10月に開いた、生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)では、里山や田んぼの恵みがあれだけ強調されたのに、今では「里山」「生物多様性」という言葉を聞くことも少なくなってしまった。生き物や種子があれからも絶滅を続けているにもかかわらず、だ。
著書では、国際条約交渉と現場の農家の実態がいかにかけ離れているかに焦点を当てた。農民の手によって長年守られてきた地域固有の在来種のおかれた現状と、保全方法について国内外の取り組みを報告した。
第1章では、街の種苗店の現実をクローズアップ。長野県で後継者がいない種苗店は「もう長くは続けられない」と漏らす。次第に消えていく在来種を地域はどう保全し、管理していくか。農業の生物多様性について提起した一冊だ。

『日本農業新聞』(12年5月6日)


『日本農業新聞』(12年5月6日)、『土と健康』(12年11月号)、『農業と経済』(13年1・2合併号)で紹介されました。