姜 誠
A5判/128ページ/本体価格1300円+税
2013年6月/ISBN: 978-4861870996
領土問題の悪循環を止めるためには、侵略の歴史を再認識したうえで、
日韓両国が歴史的事実を冷静に理解し合わねばならない。
境界をまたいで生きる在日コリアン3世が韓国の怒りの理由を解説し、
竹島の共同開発・管理を提唱する。
プロローグ 領土ナショナリズムからの脱却をめざして
「木浦共生園」の受難
強硬一辺倒の政治家たち
外交よりも内交
日韓は必要不可欠のパートナー
いまこそ日韓は竹島の共同管理を
1章 だれが領土ナショナリズムを刺激したのか?
タブーカードを切った李明博大統領
レイムダック化と逮捕
2008年竹島問題再燃の背景
慰安婦問題も大きく影響
親書をめぐるさや当て
「河野談話」見直しの動き
同じコインの裏表
2章 竹島論争の現状
サンフランシスコ講和条約で対立
李承晩ラインの設定
し烈なつばぜり合いと5つの論争
于山島をめぐる論争
「竹島一件」をめぐる論争
安龍福の評価
太政官指令をめぐる論争
大韓帝国勅令41号をめぐる論争
竹島の島根県編入をめぐる論争
軍事的な要請からの強引な編入
3章 「固有の領土」論からの脱却
日韓双方の論拠に不確かな部分
「無主先占」か、併合の先駆けか
変化する国境線
竹島はもやいの島
強欲なテリトリーゲームの清算
4章 竹島密約――「棚上げ」の知恵
14年間のマラソン交渉
国交回復を急いだ朴正熙大統領
「大平・金メモ」による妥結
漁業権問題クリア後も残った竹島問題
河野一郎と丁一権の登場
「未解決の解決」という解決策
年中行事となった口上書交換
継承されなかった密約
5章 竹島は共同管理で
密約の限界
果たされていない宿題
共同管理を構想する
「国益」から「域内益」へ
「またがり人」のすすめ
あとがき
姜 誠(カン ソン)
1957年 山口県生まれ(在日コリアン3世)。
1980年 早稲田大学教育学部卒業。
2002年サッカーワールドカップ外国人ボランティア共同世話人、定住外国人ボランティア円卓会議共同世話人、文化庁文化芸術アドバイザー(日韓交流担当)などを歴任。
現 在 ルポライター、コリア国際学園監事。
著 書 『パチンコと兵器とチマチョゴリ』(学陽書房、1995年)、『5グラムの攻防戦』(集英社、1996年)、『越境人たち六月の祭り』(集英社、開高健ノンフィクション賞優秀賞、2003年)、『『マンガ嫌韓流』のここがデタラメ』(共著、コモンズ、2006年)など。
書評オープン 日韓は不可欠のパートナーであるという立場あから竹島問題を未来志向的に解決すべきと考える在日コリアン三世の著者は、(1)竹島を領土係争の地と双方が認める、(2)領土権争いを棚上げする、という段階を踏んだうえで竹島を日韓両国で共同管理するという最終ゴールを提示する。 『出版ニュース』(13年7月下旬号) 今だからよまなくてはいけない本が、時折出版される。本書は、まさにそんな貴重な本だ。在日コリアン3世ジャーナリストが、引き裂かれたアイデンティティーをかけて紡ぎ出した痛みを伴う記述に、読者は深く納得する。 評者:鈴木耕(編集者)『ジャーナリスト』(13年7月25日) 「出版ニュース」(13年7月下旬号)、「ジャーナリスト」(13年7月25日)、「オルタ」(13年8月号)、「ふぇみん」(13年9月25日号)などで紹介されました。
また、竹島が日韓の国益とナショナリズムが衝突する最前線の島となったのは、佐藤首相ち朴大統領の間で交わされた「竹島・独島は解決せざるをもって解決したとみなす」とした密約を金泳三が反故にして実行支配を強化したからだと指摘し、今後は「国益」ではなく、東アジアの「域内益」を日韓が重視すべきだと説く。
著者は決して自らの祖国に与しようとしないし、逆に生活の場の国への配慮も示さない。著者にとって、ふたつの立場への対等な記述というものがどれほど辛いものか、日本人という立場に何の疑いも持たない我々にはうかがい知れないものだろう。それでも著者は勇敢に踏み込む。
一般の日本人にとって「竹島問題」は、どこか遠い彼方の話だ。体にも心にもほとんど影響がない。にもかかわらず、政治家たちが、そこへ「領土ナショナリズム」という衣を被せて疑似問題化する。不毛な政治家連中の人気取りの最悪のケースだ。
著者は日韓両国が振りかざす文献や論理を、ひとつひとつ冷静に腑分けしていく。そして「竹島密約」にたどり着く。「竹島・独島問題は解決せざるをもって解決したとみなす」という不思議な密約。先人たちの「棚上げの知恵」だったという。
だがそれが、自己の人気取りにナショナリズムを利用した政治家たちによって無惨な形でこわされていくことを、著者は冷静に批判する。
そして結論「竹島は共同管理で」に至る。両国の右翼的部分からは圧倒的に批判されるだろうことを引き受けながらの結論である。著者の勇気と論理に敬服する。
それこそが在日コリアンが日韓という二つの国家ナショナリズムに細分化、周縁化されていく中で、境界を越えて得たハイブリッド性の戦略だと、著者は言うのだ。