A5判/334ページ/本体2400円+税
2015年11月/ISBN 978-4861871320
自ら作り、運び、食べる
暮らしを自らの手で組み直してみる
これは、みんなで創った農場の話。
1970年代に時代の先端を走った消費者自給農場は
若者たちのゆたかな暮らしの実験室として
理想と未来を切り拓いている。
70年代の先鋭的取り組みは、若者たちの手でゆたかなオーガニックファームとして再生した。
Ⅰ たまごの会から暮らしの実験室へ
Ⅱ 農場スタッフは今
Ⅲ やさとに根づいて
Ⅳ 会から生まれた活動
Ⅴ それぞれのたまごの会/暮らしの実験室
Ⅵ ある断面/エピソード
Ⅶ 最近の『農場週報』から
Ⅷ 資料編
茨木泰貴(いばらき・やすたか)
1981年生まれ。暮らしの実験室やさと農場スタッフ。
井野博満(いの・ひろみつ)
1938年生まれ。元大学教員。たまごの会の活動の中心を担った。
著書『福島原発事故はなぜ起きたか』(編著、藤原書店)など。
湯浅欽史(ゆあさ・よしちか)
1935年生まれ。元大学教員。たまごの会の活動の中心を担った。
著書『自分史のなかの反技術』(れんが書房新社)。
書評オープン 『図書新聞』評者:西城戸 誠〈法政大学教員〉(2016年3月26日) 1974年に誕生した「やさと農場」(茨城県八郷町=現石岡市)の41年間」の物語だ。同農場は当初、70年代の社会運動や有機農業運動に影響を与えた「たまごの会」の農場として出発した。メンバーは本物の食べ物を手に入れようと考えて、自力で農場を建設し、小規模な有畜複合農業を行い、都市と農村をつなぐ活動を進めて行った。その後、方向性をめぐる二度の分裂を経て、若者が中心となって2007年1月に「暮らしの実験室」という名称で再スタートしている。有機野菜や卵のセット配送、農場体験の受け入れを柱にして活動を続けている。本書は、農場という「場」に関係した20代から80代の58人が執筆に当たった記念文集。1970年代の息吹を感じることができるし、今を生きる若い世代が何を考え、どう生きようとしているのかを知ることもできる書にもなっている。 『日本農業新聞』(2016年4月3日) 「日本経済新聞」(15年11月17~20日、夕刊)記事「できるか自給自足」(全5回)に、「暮らしの実験室やさと」の取材記事と本の紹介が掲載されました。「ガバナンス」(15年12月号)、「出版ニュース」(16年1月下旬号)、「図書新聞」(16年3月26日)、「日本農業新聞」16年4月3日)などで紹介されました。
(前略)本書はやさと農場に関わった人々の実践や思いが折り重ねられる形で描かれており、読者は断片的に見える一つ一つの記述を少しずつ関連づけて読むことで、やさと農場という場における人々の実践の総体を理解することができるだろう。また、読者はそれぞれの世代に応じた「農」や「食」への考え方の違いや、共通性を見いだすことができるはずである。(中略)
さらに、やさと農場の実践は、既存の流通しちえる一般的な商品、サービスとは異なった形のものを提供するという意味で運動性を担保する活動に対して、活動運営上の有益な示唆を与えてくれる。「つくり、運び、食べる」という「たまごの会」の理念を守り、農場を運営することと、有機農産物を提供するための採算性の担保といった、組織運営との間にはジレンマが生じる。それは事業を行う社会運動(事業型NPO、社会的企業など)が恒に市場化の圧力を受けるためでり、例えば、有機農業運動が産み出した有機野菜も、同業他社による供給が進むことで、運動自体も事業性を重視せざるを得なくなる。こうした運動性と事業性のジレンマは、事業を行う運動には必然的なことである。だが、やさと農場では、こうした市場化の影響にたいして、時には活動が分裂することになったとしても、活動の理念や存在意義を恒に問い続けること、そして周囲の状況に応じて少しずつ形を変えながら、自らの活動を継続していった。「暮らしの実験場」は、現在のやさと農場の暫定的な回答であり、このかたち自体もいつかは買えていくことになることだろう。
そしてオルタナティブな価値の創造を継続させていくためには、やさと農場のに集った人びとのように、自らの活動を自己反省的に捉え、悩みながら、活動を続けていくことだという本書の示唆は、「自らの力」で物事を考え、作り上げようとする人びとに有意義に違いない。
「図書新聞」(2016年3月26日 評者 西城戸 誠氏)