甘いバナナの苦い現実〔5刷〕

 

 

 

 

 

 

 

 

石井正子編著、アリッサ・パレデス・市橋秀夫・関根佳恵・田坂興亜・田中滋・野川未央著
四六判、388ページ 本体価格=2500円+税
ISN978-4-86187-167-2 C0036 2020年8月刊行English

日本人がもっとも多く食べている果物バナナ。安さの一方で、主な輸入先のフィリピン・ミンダナオ島では、農薬の空中散布による健康被害や不公正な多国籍企業の活動が目立つ。栽培・流通の知られざる現状を調査に基づいて詳細に描き、エシカルな消費の在り方を問いかける。

目次

序 章 そんなバナナ!?――意外と知らないバナナの話 石井正子
一. 意外と知らないバナナのこと
二. フィリピンの人たちが食べているバナナ
三. バナナから見えてくること
四. 『バナナと日本人』が投げかけた問い
五. 21世紀にバナナが投げかける問い

第1章 ミンダナオ島で輸出用バナナが作られるようになるまで 石井正子
一. なぜミンダナオ島で広がったのか
二. スペインの植民地化に抵抗した南部、植民地化された中北部
三. 独立を前提としたアメリカ植民地統治――地主エリートによる支配の始まり
四. ミンダナオ島への移民入植
五. 日本軍政期の影響
六. 独立からマルコス政権期――輸出用商品作物の生産拡大

第2章 フィリピンでバナナはどう作られているのか
1 バナナ栽培に関わる企業と人びと――農地改革後の変化 石井正子
一. 包括的農地改革法の制定
二. 栽培契約とリース契約
三. 多国籍企業の変化
四. 地場農園の変化
五. アグリビジネスと契約する生産者の変化
六. 栽培契約とリース契約の問題点
七. アグリビジネスによる低農薬栽培バナナ
八. 輸出用バナナ産業の多角化と拡大

2 「高地栽培バナナ」の発見と山間部の変化 アリッサ・パレデス
一. 高地栽培バナナの出現
二. 販売方法の変化と架空の栽培地
三. より高く甘いバナナのより苦い現実
四. 高くて甘いバナナが忘却するもの

第3章 バナナ産業で働く人たちの現実
1 輸出用バナナ産業の周辺で――収穫、梱包、運搬、廃棄バナナ利用 石井正子
一. 数字にみる概要
二. バナナ園での仕事
三. 優良産業の数字には現れない労働者の実態――二つのアグリビジネス
四. 農園から港まで――バナナ園の外での仕事
五. 規格外バナナのゆくえ

2 正規雇用を求める労働者の闘い――スミフル農園の梱包作業所 田中滋
一. 日本のNGOの調査開始
二. 梱包作業所の不当労働
三. 法律を遵守しないスミフルと闘いを続ける労働者
四. 日本の市民・NGOがしてきたこと、これからできること

第4章 バナナ園の農薬散布――毒か薬か
1 バナナをめぐる農薬問題 田坂興亜
一. フィリピンのバナナ園で使用されている農薬
二. バナナに残留する農薬と子どもたちの健康への影響
三. 農薬散布がバナナ園周辺住民の健康に及ぼす影響
四. 子どもたちに安全な食環境を残す

2 フィリピンの農薬空中散布反対運動 アリッサ・パレデス
一. 農薬カクテル
二. 日本人の食のために代償となる命
三. 農薬の空中散布に反対する運動
四. バナナ王のお膝元で
五. 人間が大切にされていない

第5章 多国籍アグリビジネスの再編と新たな「規制」枠組み 関根佳恵
一. 多国籍アグリビジネスとバナナ
二. 多国籍アグリビジネスによるバナナビジネスの形成と再編
三. 多国籍アグリビジネスの新たな戦略――オルタナティヴを「盗用」する
四. 新たな「規制」枠組みの構築

第6章 バナナが食卓に届くまで――サプライチェーンの徹底解剖  市橋秀夫
一. バナナのサプライチェーン
二. バナナはどう輸出されているのか
三. バナナはどう輸入されているのか――保税地域内での工程と輸入業者
四. 追熟加工は誰がどう行うのか
五. 国内流通の短縮効率化と寡占化――卸売市場からコールドチェーンの確立へ
六. 小売店から消費者へ――ブランディング(ブランド戦略)と量販店
七. 誰にどれだけの取り分があるのか――バナナ価格の構成を見る

第7章 私たちはどう食べればよいのか――エシカルな食べ方へ
1 公正な民衆交易を目指して 市橋秀夫
一. 日本でバナナの民衆交易が始まった
二. 新自由主義のもとでの民衆交易/フェアトレードの変容

2 エシカルな食べ方へ 野川未央
一. オルタナティヴなバナナの現状
二. 多国籍バナナ企業を変えるために
三. エシカルな食べ方へ

編著者プロフィール

石井正子(いしい・まさこ)序章、第1章、第2章1、第3章1

立教大学異文化コミュニケーション学部教授。専門:フィリピン研究、紛争研究。主著=『女性が語るフィリピンのムスリム社会――紛争・開発・社会的変容』(明石書店、 2002年)。共著=『現場<フィールド>からの平和構築論』(勁草書房、2013年)、『地域・草の根から生まれる平和』(早稲田大学出版部、 2015年)。

著者プロフィール

アリッサ・パレデス(Alyssa Paredes)第2章2、第4章2
1989年生まれ。ミシガン大学人類学部博士研究員。専門:人類学。共著=The Promise of Multispecies Justice, Duke University Press. Feral Atlas: The More-than-Human Anthropocene, Stanford University Press Digital Projects, 2020. 主論文=The Problem of mechanization: Craft, Machines, and ‘Centering’ in a Japanese Mingei Pottery Village, The Journal of Material Culture 23(2), 2018.

市橋秀夫(いちはし・ひでお)第6章、第7章1
1962年生まれ。埼玉大学大学院人文社会科学研究科教授。専門:イギリス近現代社会史。共著=『イギリス文化史』(昭和堂、2010年)、『バナナとフィリピン小規模零細農民――バランゴンバナナ民衆交易の現状と課題』(埼玉大学教養学部、2018年)。主論文=The Reception of E.P. Thompson in Japan: The New Left, The Making, and“Moral Economy”, International Review of Social History 61, 2016.

関根佳恵(せきね・かえ)第5章
1980年生まれ。愛知学院大学経済学部准教授。専門:農業経済学、農村社会学。共著=The Contradictions of Neoliberal Agri-food: Corporations, Resistance, and Disasters in Japan, West Virginia University Press, 2016,『バナナとフィリピン小規模零細農民――バランゴンバナナ民衆交易の現状と課題』(埼玉大学教養学部、2018年)、『よくわかる国連「家族農業の10年」と「小農の権利宣言」』(農山漁村文化協会、2019年)。

田坂興亜(たさか・こうあ)第4章1
1940年生まれ。国際農薬監視行動ネットワーク(PAN)アジア・太平洋日本代表、元・国際基督教大学教授、アジア学院校長。専門:アジア諸国の農薬による環境汚染。主著=『アジア輸入食品汚染』(家の光協会、1991年)、『危機に立つ人間環境――「食」と環境の化学』(光村教育図書、1999年)。共著=『食品安全基準――ガットの落し穴』(家の光協会、1992年)。

田中 滋(たなか・しげる)第3章2
1981年生まれ。特定非営利活動法人アジア太平洋資料センター(PARC)理事・事務局長。専門:都市地域計画。

野川未央(のがわ・みお)第7章2
1982年生まれ。特定非営利活動法人APLA事務局長。専門:東南アジア社会経済学。編著=『非戦・対話・NGO:——国境を越え、世代を受け継ぐ私たちの歩み』(新評論、2017年)、『イチからつくるチョコレート』(農山漁村文化協会、2018年)。共著=『フィリピンの少女ピア――性虐待をのりこえた軌跡』(大月書店、2006年)。

書評オープン


ガバナンス(2020年10月号)、「赤旗」(2020年10月25日号)、「クーヨン」(2020年12月号)、『東京新聞・中日新聞』(共同通信による一斉配信:2020年11月7日)、「週刊金曜日」、「消費者リポート」(2020年11月20日号)、『長周新聞』(2020年11月22日)、『朝日新聞』(2020年11月28日)、『北海道新聞』(2021年1月24日)、『歴史地理教育』(2021年3月号)、『日本農業新聞』(2021年4月25日)、生活クラブ「本の花束」(2021年7月第二回)、『東京民報』(2021年9月19日)、「有機農業研究」(13巻第1号、2021年)などで紹介されました。