地域を支える農協——協同のセーフティネットを創る[3刷]

高橋巌 編著
四六判/304ページ/本体2200円+税
2017年12月/ISBN 978-4861871450[3刷]

政府からもマスメディアからも攻撃される農協は、
本当に不必要なのか?!

一方で、国連もヨーロッパも途上国も、
協同組合の重要性を強調している。

偏見を排して、農業者だけでなく市民にとっての
農協の役割を考えてみよう。

日本協同組合学会「2020年度 学会賞(学術賞:共同研究)」受賞作

 

目次

序 章 本書をまとめた背景/高橋 巌

第Ⅰ部 グローバル化の進展のもとでの農協解体攻撃
第1章 農業協同組合の特質と「農協改革」の問題点/高橋 巌
第2章 全農「株式会社化」の意味するもの……オーストラリアにおける酪農協同組合「改革」の顛末に学ぶ/小林信一

第Ⅱ部 地域におけるセーフティネットと農協……総合農協における「総合性」の根拠
第3章 農協の総合的な事業展開は存続できるか……共済事業とセーフティネットの再構築/高橋 巌
第4章 都市農協の重要性と准組合員問題……横浜農協における「農的事業」展開の事例から/高橋 巌
第5章 地域インフラを支える農協……厚生連と佐久総合病院/小磯 明
第6章 離島の農協が取り組む移動信用購買車事業……山口大島農協/高橋 巌

第Ⅲ部 各地域・分野における農協・協同活動の重要な役割
第7章 食料基地・北海道の農協の総合力/東山 寛・樋口悠貴
第8章 兼業化が進む稲作単作地帯の農協の存在意義/伊藤亮司
第9章 酪農制度改革と指定生乳生産者団体/矢坂雅充・高橋 巌
第10章 地域における家族農業の重要性と協同性……中山間地域を中心に/相川陽一
補 章 再生可能エネルギー事業=小水力発電を展開する農協/高橋 巌・佐藤 海

終 章 明日の私たちを支える農協であるために/高橋 巌

 

編著者プロフィール

高橋 巌(たかはし いわお)
1961年生まれ。 狭山市農協、中央酪農会議、農協共済総合研究所を経て、日本大学生物資源科学部教授。 専門は農業経済学・地域経済論。 主著に『高齢者と地域農業』(家の光協会、2002年)など。

 

書評

 

書評オープン

政府主導での農協改革の実態を振り返り、その問題点を指摘、世界的には協同組合の役割や価値が評価されていることを踏まえて、農協の事業や活動を多面的に分析する。(中略)総合農協の意義を明らかにし、地域社会に多方面にわたり貢献する機能を果たしている点を示す。

『農業共済新聞』(2018年1月17日)


本書の特徴は、産業としての農業の発展、農業者の所得増大の支援という役割だけでなく、生活者、地域全体のセーフティーネットとして機能する農協、という視点にある。そのため、共済事業や厚生事業、移動販売や給油所など、これまで類書が十分扱ってこなかった分野にも光を当てる。取り上げる地域も、主産地だけでなく、大都市や中山間地域、離島と幅広い。地域と一体になった非営利組織であり、総合事業を営む農協だからこそ、そのような役割を担うことができる。このセーフティーネットとしての役割を自覚、強化し官邸農政による農協改革に対抗すべし、というのが本書の主張だ。最も印象に残ったのは、給油所の存続運動を扱った第8章の前半部分。(中略)この取り組みは「今後の農協事業全体の再構築に繋がる『発見』であり……地域そのものを、事業を通して守る農協の存在意義」である。(中略)農協は地域のセーフティネットとして何ができるか、そしてそこに組合員、役職員はどう関わるか、本書はそのための多くの気付き、手掛かりを与えてくれる。

評者:大分大学経済学部地域システム学科 山浦陽一准教授
『日本農業新聞』(2018年3月4日)


安部政権は、相互扶助による非営利性という協同組合の組織特性を否定し、「組合員の農業所得向上」のためと称して官邸主導による「農協改革」という農協攻撃をすすめている。本書はこの改革を農業・農村の持続的発展と食の安全を阻害し、国土の荒廃につながる恐れがあると批判、農協連合会の株式会社推進論に対して警鐘を鳴らす。後半では、農協の共済事業が農村の安心をさせ、都市農協は不安定化しつつある市民生活におけるセーフティネットの再構築に対応していることや地域インフラにおける農協の意義と役割を再確認し、地域農業と地域住民の生活をささえうる真の農協改革を提案する。

『出版ニュース』(2018年4月上旬号)


 本書は、組合員をはじめとする住民の暮らしを支え、地域社会の発展のために日夜奮闘している「総合農協」に焦点を当てて、歴史的な経過を丁寧にトレースし、全国各地の豊富な事例分析に基づきながら、総合農協の存在意義と今後の方向性を論じたものである。(中略)編著者である高橋巌氏は終章で次のように結論づける。総合農協は、従来の「制度としての農協」から脱皮して、「総合農協の堅持と農協らしさ」による自立性発揮」を可能にする新たな農協へと転換すべきであり、目指されるべきは、セーフティネットと地域自給をベースにした地域経済の内発的発展と持続可能な農業の再生産である。そのためには、広範な助け合いの連携をつくりだし、「強く、かつ、しなやかな世論」形成が必要だと。農協・協同組合「誤解」を「理解」に変えるために、多くの人に一読を薦めたい好著である。

評者 福井県立大学経済学部教授 北川太一
『図書新聞』(2018年7月28日)


日本大学生物資源科学部食品ビジネス学科Youtubeコーナーにアップされました。
『協同組合研究誌にじ』(2018年夏号)で紹介されました。
『くらしと協同』(2018年夏号)、『村落社会研究ジャーナル(27巻第一号)
』で紹介されました。